●うとうとと眠りに入りかけ、でもまだ半分は現実の方に意識が残っていて、外の音などは聞こえている状態で夢を見ていた。夢を見ながらも、今、自分は眠りかけていて、これは夢なのだということを意識はしている。ぼくは誰かをヘッドロックしている。誰なのかはよく分からない。しかし腕の感覚では頭はそれほど大きくはなく、抵抗する力も弱いので、相手は子供なのかもしれない。その誰かは、冗談混じりでぼくに悪態をついてくる。それに対してぼくも、うるせーぞお前、黙れよ、みたいな軽い感じで、腕に力を入れて頭を締め上げる。ぎゅっと力を入れると、その誰かは急におとなしくなる。ぼくは強く締め過ぎたかと反省して力を緩める。すると再びふざけた調子で悪態をつきはじめる。いつまでも調子に乗って黙らないので、ぼくはまた力を込めて締め上げる。すると黙る、が、緩めるとまた、全く懲りた様子もなく騒ぎだす。それを何度かつづけているうちに、腕の力を緩めても反応せず、ぐったりと黙ったままの状態になった。ぼくは、あれ、と思い、つづいて、とんでもないことをしてしまったかもしれないという恐怖に包まれる。しかし考えてみれば、これは夢なのだ。ここで目覚めてしまえば何ということはない。嫌な夢を見た、で済むのだ。だが、ここで急激に強い睡魔(既に眠っているのに「睡魔」というのはおかしいのだが)に襲われ、深い眠りの方へと引きずり込まれそうになる。今の状況が夢だということは知っている。だが、もしこれがたんなる夢ではなく、何かしらの現実的な出来事を反映している幻影のようなものだったら、このまま深い眠りに入ってしまう訳にはいかない。だから直ちに目覚めて何らかの対処をしなくてはならないだろう。しかし、深い眠りへの誘惑は抗し難い力でぼくを引っ張ってゆこうとするのだ。このまま気持ちよく眠ってしまえばよい。いいや、そういう訳にはいかないだろう。ぼくは眠ろうとする力と起きようとする力とに引き裂かれている。ここで、まるで救いの手が差し伸べられたかのように、「現実」の側から電話の呼び出し音が眠りのなかに暴力的に侵入してくる。その音によって夢の世界から切断され、現実へと戻ってくると、ソファーの上で、テレビをつけっぱなしにして寝ていたのだった。